こんにちは、宅建講師の大野翠です。今回は宅建業法の頻出テーマと学習法について解説します。
宅建業法の学習法は、ひたすら過去問を中心に何度も繰り返すことです。
並行して、改正点や近年注目されている話題についても意識しておきましょう。
なかでもハザードマップや低廉な空き家については、近年の改正点であり一般知識としても知っておいたほうが良い内容です。
宅建試験で出題される50問のうち、宅建業法は20問出題されます。中でも今回は間違いやすい論点であり、確実に抑えたいテーマである「三大書面(35条書面・37条書面)」と「8種制限(手付の制限・手付金等の保全措置)」について解説します。
宅建業法「35条書面・37条書面」
宅建業法の大きなヤマのひとつが「三大書面」です。三大書面のうち、実際によく出題されるのは35条書面、37条書面です。それぞれの概要についてと共に、35条書面と37条書面の比較問題としても出題されます。
35条書面・学習ポイント
35条書面とは重要事項説明書のことで、契約締結前までに、必ず宅地建物取引士(専任ではなくてよい)が、買主や借主など相手方に対して説明を行わなければいけません。その際には、宅地建物取引士証の提示が必要です。
35条書面の学習ポイントは、重要事項書面の必須記載事項と任意記載事項についてです。
宅地か建物か、売買か貸借かで記載事項は変わります。
なかでも近年の令和2年の改正点である水害ハザードマップについては宅地と建物、売買と貸借全てにおいて記載が必要である点は確実に理解しておきましょう。関連して、土砂災害警戒地域、津波災害警戒区域についても同様に全ての取引を対象に必須記載事項となっている点も覚えましょう。
同様に、近年追加された内容として、IT[重説に関するものや、インスペクション(建物状況調査)に関する内容があります。インスペクションに関しては、34条、35条、37条それぞれの場面で記載・説明の内容が違うため、縦断的な知識として関連付けて理解することをおすすめします。
35条書面は、37条書面のベースになる記載内容がほとんどです。そのため、この後の37条書面の理解のためにも、35条書面の記載事項は確実に抑えましょう。
37条書面・学習ポイント
37条書面は、実際に売買や貸借の契約をした後に契約の当事者に渡す契約書のことです。移転登記の時期や引き渡しの時期など、35条書面よりも具体的な内容が記載されているのが特徴です。
37条書面は宅建士が記名押印しますが、交付するのは宅建業者です。交付するだけでよく、説明の必要はありません。記名押印と交付・説明まで宅建士が負う35条書面の知識と混同させて出題されることが多いです。取引の相手方が宅建業者であっても、交付を省略することはできません。
35条書面の説明義務がなく、37条書面には記載しなければいけない以下の3つについて、過去に繰り返し出題されています。
- 登記の申請時期
- 引き渡しの時期
- 代金や賃料の支払い方法と支払い時期
近年、35条書面と37条書面を比較する問題はよく出題されています。過去問演習と同時に、比較しながら知識定着を進めると効果が高いでしょう。
宅建業法「8種制限・手付額の制限と手付金等の保全措置」
宅建業法の出題範囲のうち、三大書面と同じく大きなウエイトを占めているのが「自ら売主8つの制限」です。いわゆる「8種制限」ですね。業者間の適用はなし、という大前提のもと、クーリングオフや他人物売買など8つの制限についての内容です。
その中でも混同しやすいのが手付に関する内容です。8種制限のうち2つが手付に関することであるため、試験問題を一見するとどの知識を使って解答してよいかわからなくなる受験生が多いです。
8種制限の中の2つの手付について、それぞれに理解しておくと確実に得点につながります。なお、ここでの手付とは解約手付をイメージしておくと良いでしょう。
手付額の制限
気に入った物件を購入しようと思ったときに、宅建業者へ手付金を支払う場合があります。この手付額を宅建業者が自由に決めてよいとなると、不当な手付額が横行する恐れがあります。
そこで、一般の顧客を守るために「手付額の制限」があります。制限は代金の2割までとされています。つまり、売買代金3,000万円の場合は600万円までなら手付金として受け取ってよいということです。
また、2割ちょうどまでの手付は良いですが、2割を超えた場合は「超えた部分が無効」となります。契約全体が無効になるというひっかけが繰り返し出題されているので注意しましょう。
手付金等の保全措置
繰り返しになりますが、手付額の制限は代金の2割までです。その2割までの手付を払った後、仮に宅建業者が倒産すると物件の引き渡しを受けられないどころか、手付金も返ってこない恐れがあります。
このような事態を防ぐために、宅建業者には「手付金等の保全措置」が義務付けられています。一般の顧客から預かった手付金「等」は、万が一のことがあっても返還できるように備えておきますよ、という意味です。
この保全措置が必要な手付金「等」には、何が含まれるかという点も頻出論点です。
手付金等は、代金の一部または全部として支払われる金銭および手付金、内金、中間金などのことで、代金に充当される性質のものです。手付金に充当される申込証拠金等も、この場合の手付金等に含まれます。
あわせて、保全措置が不要となる内容も良く出る箇所です。未完成物件では代金の5%以下かつ1,000万円以下、完成物件では代金の10%かつ1,000万円以下の手付金等である場合は、保全措置不要です。実際の問題では未完成や完成という用語では出題されません。未完成物件は「工事完了前」、完成物件は「工事完了後」という記載がされることがほとんどです。
さらに近年よく出題されるのが「手付額の制限」と「手付金等の保全措置」を合わせてひっかける問題です。たとえば「工事完了後の建物代金3,000万円の手付金として900万円を受領する場合でも、保全措置を構ずれば受領できる」という問題は要注意です。
工事完了後ということは、完成物件ですので10%は300万円です。受領する900万円は10%の300万円を超えていて、かつ1,000万円以下なので保全措置を構ずれば手付金を受け取れる…と考えてしまった人は要注意です。
よく読むと、この問題は「手付金を受領できるかどうか」について問われています。そもそも手付金は代金の2割までしか受け取ってはいけない決まりです。
そのため3,000万円の2割で600万円が上限です。保全措置を講じるかどうかは全く別の話であり、保全措置を講じたとしても手付額の制限は2割までで変わりません。
このように手付に関する問題は、手付額の制限なのか、保全措置なのか、どちらを問われているのかをしっかり問題文中から読み取ることがポイントになります。
宅建業法・まとめ
宅建業法は、宅建試験全体のなかでもっともボリュームのある分野です。出題される20問を確実に得点できれば、試験全体の得点の底上げにつながります。
35条書面と37条書面、8種制限のうち手付に関する2テーマをはじめ、類似の論点については複合問題として出題されやすいです。このほかにも、宅建業者と取引士、営業保証金と保証協会などがあります。
それぞれの基本知識が抑えられたら、次は類似の論点を比較しながら知識定着をはかることをおすすめします。
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